アレルゲン消費により食物アレルギーを克服できる可能性

最近の研究では、卵、牛乳、小麦などのアレルゲンを完全排除するのではなく、専門家の指導のもとで少量摂取する「摂食療法」を行うことで、食物アレルギーが短期間に抑制される可能性が示唆されます。本当に食物アレルギーの子どもを大幅に減らすことが出来るのでしょうか?

食物アレルギーは、食べた直後に症状が見られます。文部科学省が2013年に公立の小・中・高校を対象に行った調査では、生徒の4〜5%に食物アレルギーが見られました。

わずかな量の食べ物でも、呼吸困難や血圧低下など、命に関わる症状が出るため、食物アレルギーへの対応としては、アレルギーの原因を「完全に除去する」というシンプルな方法がとられていました。

しかし、2007年に日本で開催された学会では、「医師の指導のもとで少量の食物を摂取すれば、アレルギー反応を抑制できる」という説が提唱されました。この「経口免疫療法」は、アレルギーの原因となる食物を摂取し続けることで、人間が本来持っている免疫細胞の生成機能を利用し、アレルギー反応を抑制できるというものです。

現在、主にこの治療方法の安全性と有効性を検証するための臨床試験が行われています。

日本の国立成育医療研究センターが2021年1月に小児科医の国際学術誌に発表した研究では、2歳の時にアレルギー検査で陽性と診断された43名の子どもが6歳になった時、再び検査を行いました。卵を完全に排除した13名の子どものうち、12名がアレルギー体質のままだったのに対し、アレルギーの原因を完全には排除しなかった30名の子どものうち、16名には改善が見られました。

また、順天堂大学の研究チームは、2020年8月にマウスを用いた実験を行い、経口免疫療法が食物アレルギー症状の発現を抑制する具体的なメカニズムを解明しました。反応を低下させる能力をもつ細胞が、全身に増えることが分かったのです。

一方、イギリスに本部を構える国際民間学術団体である「コクラン」は、2018年4月に卵アレルギーに対する経口免疫療法を複数の研究を用いて評価し、これを「有効な治療法」だと認めながらも、重篤なアレルギー反応や研究参加を中止したケースがあったことから、安全性に対する懸念を指摘しました。

日本小児アレルギー臨床免疫学会は2017年、全国で約300の医療機関を対象とした調査結果を発表し、この治療を受けた子どものうち9名に、自発呼吸が出来なくなるなど重篤な症状が見られたことを明らかにしました。

国立成育医療研究センター総合アレルギー科の山本喜和子室長は、「経口食物負荷試験などで定められた許容量を超えた量を摂取させた可能性がある」と指摘しています。許容量をはるかに下回る量でもアレルギーを制御できる可能性があることが実証されたため、安全な治療方法が考案されれば、重篤な症状を引き起こすリスクは大幅に減るだろうと考えられています。