べっ甲とは、蜂蜜のような黄色に黒褐色の斑点が入った、混色性に優れた亀の甲羅を加工したものです。江戸時代(1603〜1867年)の装身具や工芸品の素材として高い価値をもっていました。
べっ甲は、赤道付近の熱帯の海に生息するウミガメの一種、タイマイの甲羅で作られており、聖徳太子の時代である7世紀に、中国から日本に伝承されました。奈良・東大寺の正倉院には、べっ甲をあしらった工芸品や、螺鈿(らでん)と呼ばれる貝殻細工の工芸品が収められています。べっ甲は、ポルトガルやオランダの船員によって南蛮渡来の地・長崎に渡来した後、江戸時代に入り本格的な流通が始まりました。
貝殻を熱で圧着させ、厚みを出す江戸べっ甲の製法は、髪飾りや櫛、帯留めなどに用いられました。
磯貝さんは、べっ甲製品が完成するまでの工程を実演しています。貝の模様や表面の状態を見ながら、糸のこぎりでべっ甲を涙型に切り出し、雁木(がんぎ)と呼ばれる巨大なやすりで削ります。べっ甲の磨き方にも工夫を凝らし、2枚の貝に独特の光沢を持たせます。それから紐で縛り、万力で締めあげ、熱した鉄板で挟みます。
7分後には2つの甲羅が1つに固められ、素材の厚みが2倍になりました。磯貝さんは「熱さは長年の経験と勘で決めます。これを繰り返してべっ甲を作り、さまざまな形に加工するのです」と言います。続けて、布に包んだ高速円筒研磨機で磨き上げます。これで落ち着いた上品なティアドロップ型ペンダントの完成です。
貝殻の厚さは3〜5ミリ程度ですが、しっかりした手触りで、割れる心配はなさそうです。